日本内分泌学会創設100周年記念学会で高峰譲吉博士を特別展示

2026年6月、京都・国立京都国際会館において、「第22回国際内分泌学会議(ICE2026)/第99回日本内分泌学会学術総会(JES2026)」が開催されました。

本学会は、日本内分泌学会創設100周年を記念して開催された特別な大会です。世界76の国と地域から研究者・医療関係者が集まり、参加者は約4,700名にのぼりました。海外からの参加者は約1,500名とされ、会場となった京都国際会館には、期間中、世界中の研究者や医療関係者が集いました。

この歴史的な節目となる学会において、研究会は日本内分泌学会100周年記念事業の特別展示として招かれ、会場内のRoom104「JES 100th Anniversary Exhibition」にて、高峰譲吉の生涯と業績を紹介する展示を行いました。

本記事では、その活動の様子をご報告いたします。

会場となった国立京都国際会館。会期中は世界各国から集まった研究者や医療関係者で賑わいました。

開会式に秋篠宮皇嗣殿下がご臨席

本学会の開会式は2026年6月2日に開催され、秋篠宮皇嗣殿下がご臨席になり、お言葉を述べられました。

殿下は、内分泌学が小児科・内科・外科・産婦人科といった臨床医学のみならず、基礎医学、薬学、看護学など幅広い分野に関わる学際的な学問であることに触れられたうえで、次のように述べられています。

「内分泌系が人体に普遍的に備わった機能であることもあり、この学問分野の知見は、国や地域を超えて共有され、応用されてきたことも特筆されなければなりません。」

(開会式秋篠宮皇嗣殿下お言葉・和文仮訳より/全文はこちら

高峰譲吉によるアドレナリン結晶化の成果もまた、こうした国際的な医学の発展の流れの中に位置づけられるものといえるでしょう。

なぜ、内分泌学の学会に高峰譲吉が招かれたのか

内分泌学は、ホルモンと、それを分泌する臓器の働きを研究する学問です。

今日ではホルモンは当たり前のように知られていますが、19世紀末から20世紀初頭にかけては、その正体すら十分には解明されていませんでした。

そのような時代に、副腎から分泌される物質であるアドレナリンを世界で初めて純粋な結晶として取り出すことに成功したのが、高峰譲吉と助手の上中啓三です。1900年、ニューヨークのアパート地下にあった小さな実験室で行われたこの研究は、長年にわたり多くの研究者が挑戦しながら成功できなかった課題を解決するものでした。

アドレナリンの結晶化によって、研究者たちは初めてホルモンを「実体のある物質」として扱えるようになりました。これは内分泌学を推測の学問から実証科学へと発展させる重要な転機となりました。

日本内分泌学会創設100周年という節目において、高峰譲吉を紹介する展示が企画された背景には、このような歴史的意義があります。

「創設100周年」なのに「第99回」――学会100年の重み

今回の学会には、ひとつ印象的な事実があります。

それは、「創設100周年」でありながら、開催回数は「第99回」だということです。

その理由は、1946年の学会が開催されなかったためです。終戦直後の日本は深刻な物資不足の中にあり、学会を開催することができませんでした。しかし興味深いことに、その前年である1945年には戦時下でありながら学会は開催されています。

日本内分泌学会の100年の歴史の中で、開催が見送られたのがただ一度だけという事実は、日本の医学研究者たちがどれほど真摯に学問を継続してきたかを物語っています。

そのような歴史ある学会の100周年記念事業の一つとして展示の機会をいただけたことは、私たち研究会にとって大変光栄なことでした。

  • 「100年の矜持、挑戦そして創造(A Century of Pride, Challenges, and Innovations)」を掲げた記念展示。

展示を形にするまで――会期前日の設営作業

今回の展示は、会期前日の6月1日に設営を行いました。

当日は、研究会の事務局が京都国際会館へ入り、現地設営スタッフとともに準備を進めました。

会場となったRoom104には、事前に制作した6枚の展示パネルを設置し、展示ケースには上中啓三の実験ノート(複製)やタカミネ研究所が上中啓三へ贈った記念の銀皿、関連資料などを配置しました。また、アニメーション映像の上映準備や配布資料の設置も行い、翌日の開幕に向けた最終確認を行いました。

今回展示した銀皿は、金沢ふるさと偉人館が所蔵しています。展示にあたり、同館の山岸学芸員が設営日にあわせて金沢から京都まで直接持参してくださいました。

設営作業では、資料の搬入だけでなく、展示ケース内での配置についても多くの助言をいただきました。どの資料を中心に見せるか、来場者の視線がどのように動くかといった点について、博物館展示の専門家としての視点から具体的なアドバイスをいただき、そのおかげで限られたスペースの中でも資料の魅力が伝わる展示に仕上げることができました。

数か月にわたって準備してきた展示が、実際の会場空間として形になった瞬間でもありました。翌日から始まる国際学会に向け、最終確認を終えて設営を完了しました。

展示の内容――6枚のパネルと、ゆかりの品々

今回の特別展示では、高峰譲吉の生涯と業績を6枚のパネルにまとめ、来場者が物語を追うように読み進められる構成としました。

単に資料を並べるのではなく、初めて高峰譲吉を知る方でも理解しやすいよう、人物紹介から始まり、アドレナリン結晶化への挑戦、そしてその後の社会的功績へと続くストーリーを意識して構成しました。

パネル構成

1.高峰譲吉――グローバルイノベーションの先駆者
科学者、発明家、起業家、民間外交家として活躍した高峰譲吉の全体像を紹介。

2.タカジアスターゼとアドレナリン
消化酵素タカジアスターゼの事業化からアドレナリン研究へ至る流れを紹介。

3.結晶化への道
上中啓三が残した実験ノートをもとに、結晶化までの研究過程を解説。

4.アドレナリンか、エピネフリンか
名称を巡る歴史的経緯を一次資料に基づいて整理。

5.科学を超えた功績
日米桜寄贈、理化学研究所設立提案、企業経営など、多方面での功績を紹介。

6.100年越しに届いた栄誉
2024年の全米発明家殿堂入りについて紹介。

展示ケースには、化学遺産第2号に認定された上中啓三の実験ノート(複製)をはじめ、銀皿、関連書籍やこれまでに発行した会報などを展示しました。

また、高峰譲吉の生涯を紹介するアニメーション映像も上映し、研究者や医療関係者だけでなく、幅広い来場者に親しみやすい形で人物像を伝える工夫を行いました。

世界中から寄せられた反応

展示には会期4日間を通じて、のべ数百名の方々が訪れました。

会場では常に誰かがパネルの前に立ち、説明文を読み込んだり、展示品を見入ったりする姿が見られました。海外からの参加者も多く、国際学会ならではの反応に触れることができました。

来場者が自由に記入できるメッセージノートには、日本語だけでなく英語によるコメントも数多く寄せられました。

特に印象に残ったのは、インドからの参加者のメッセージでした。次回開催国の研究者から寄せられたメッセージは、国際学会ならではのつながりを感じさせるものでした。

AMAZING COUNTRY — Love from India
Welcome to ICE 2028 in India!

また、日本内分泌学会の次の100年への期待を込めたメッセージも記されていました。

To wards an Even Brighter Endocrinology in the Next 100 years

アドレナリンという発見が、現在も世界中の医療現場で活用されていることを考えると、高峰譲吉の業績が国境を越えて受け止められていることを実感する機会となりました。

おわりに

世界76の国と地域から研究者が集う、日本内分泌学会創設100周年の舞台。

その場で、高峰譲吉という一人の日本人科学者の業績を紹介する機会をいただけたことは、私たち研究会にとって大きな喜びでした。

アドレナリン結晶化から125年以上が経った今も、その成果は世界中の医療現場で生き続けています。そして高峰譲吉が残した足跡は、医学・科学だけでなく、国際交流や産業発展の歴史の中にも確かに刻まれています。

今回の展示が、高峰譲吉の業績をあらためて知っていただく機会となり、その価値を次の世代へ伝えていく一助となれば幸いです。

記事作成:令和8年6月15日/文責:事務局

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